はじめに
「情報戦」と聞くと、さながらスパイ映画のような印象を受けますが、「情報戦」というのはそのようなスパイやクラッカー(ホワイトハッカーでないもの)のような水面下の戦争を指すだけのものではありません。もっと身近な、例えばぼくらがよく使用するYou Tubeのような、オープンなものが主役になることが多い。「情報戦」の本質は、少しでも多くの人に情報を届け、より多くの支持を仰ぐことなのです。ダーイッシュ(ISIS)の活動がまさに現在の「情報戦」を象徴しています。彼らは残虐でセンセーショナルな動画をアップロードすることで、世界中の潜在的同志を獲得しているのです。
本稿は、以下の著書、
・国際メディア情報戦 高木徹
・日本の「外交と情報」 孫崎享
を参考とした上で、さらに先日のパリ同時テロ、その後のダーイッシュの機関雑誌DABIQ上にて
「すべての日本人が標的だ」
http://www.huffingtonpost.jp/2015/11/24/islamic-state-target-all-japanese-dabiq_n_8635974.html?ncid=fcbklnkjphpmg00000001
という声明を受けて、独自の分析を踏まえ、国外にいる日本人としてリアルに考えたこと、感じたことを記すものです。
「国際メディア情報戦」ーそれは、グローバルな情報空間で形づくられる巨大な情報とイメージのうねりであり、それをどのように誘導するのか、または防ぐのか。国家、企業、PRエキスパート、メディアの担い手たちの間で行われている、銃弾を使わないもうひとつの戦いだ。
高木徹
「“すべて”の日本人」に含まれた意味
“すべて”という言葉の意味を解釈してみます。結論的には、“日本国外が主な対象”となりましょう。
この雑誌はISの機関雑誌であるので、当然ムスリムを読者対象としています。しかしながら、神の言葉、アラビア語で書かれていないこと、英語で書かれていること。さらに、ネット公開をしていることに注目してみると、対象はムスリムだけではない気もしてきます。
基本的に、例えばフランスのテロ事件を受けた直後の犯行声明文などは、敵国への警告もさることながら、世界中のムスリムの共感を得るためです。本雑誌も そのはずです。この号では,フランスのテロを始め、ベイルートでのテロ、さらにロシア旅客機テロを特集しています。
“自分たちはこんなこともできる、なぜなら神が ついているから。”
“我々の神を冒涜した当然の報いだ” という主張。
そして、こう続く。
“すべての日本人が標的だ。安倍晋三首相の傲慢な〜”。
日本本土への攻撃は難しい。
(詳しい理由は、専門家によるこちらのブログをご参照ください。
http://blog.livedoor.jp/dokomademoislam/ )
それでも日本人が標的=日本人を攻撃せよ、となると、簡単なのは国外にいる日本人だ。
“無理をしなくても、我々の敵(日本人)はあなたの周りにいるよ。彼らを攻撃すること、それは我々、そして神を支持することと同義である。” と囁いているわけです。
話を少し戻します。
なぜ、英語で書かれているのか。
なぜ、ネット公開なのか。
2013年4月に起きたボストンマラソンテロ事件を覚えているでしょうか。
犯人はアメリカに住む兄弟。家庭で作れる爆弾を製造し、犯行に及びました。
その当時、米メディアではある1つのワードが多用されました。「ラディカルゼーション(過激化)」という言葉です。
テロを起こす=過激化。
この過激という思想が怖いわけです。テロそのものよりも、テロを生みだす思想を排除しようとなりました。
この時に、過激化の原因として主に2つ指摘されました。
「チェチェン・コネクション」と「ホームグロウン(home grown)」です。
チェチェン・コネクションとは、あの有名な映画「フレンチ・コネクション」に起因します。兄弟の父は、チェチェン人で、犯行前の半年、兄はこの地で過ごし、そこでテロリストに接触、過激化したというもの。つまり、過激化の原因は、本土の外にあるというものです。
これに対し、ホームグロウンとは、文字通り、原因は本土にあるという見方。これは末恐ろしいことです。原因が本土以外、しかも場所を特定しているのなら、早い話、そこからくる人を入国させなければ解決します。しかし、内部で生まれるのであれば、これは防ぎようがない。
では、国内で何が彼らをインスパイアさせたのか。それは”インスパイア”である。
”インスパイア”というのは、オープンソース・ジハード、ネット公開された機関誌であり、全編カラーの英語の雑誌。目的は、さも、この事件でテロリストでなかった兄弟を過激派に仕立て上げたようなことである。雑誌には、使われた爆弾の製造方法も記述されていたそうです。
(ちなみに、インスパイアもこの度の雑誌もウイルス感染する可能性が大きいので、ダウンロードは控えてください。私は後の参照ものを拝見しました。)
DABIQ、この雑誌も同じことを狙ったものである。
日本にはムスリムは少ないし、難民が少ないことからも、国内にいるムスリムの人は日本を自発的に選んだことになるから、日本が好きな人が多い。つまり、発行者らはこのような人たちには期待していない。日本には、潜在的同士を期待できない。
それでも、“日本人”、しかも、“すべて”というワードを使って呼びかけていること、
上記の事実、歴史を踏まえると、
自ずと“国外にいる日本人”となる。
自らが彼らのターゲットとなったあとで
特にテロを恐れて、市街地に行かなくなったというようなことは一切ありません。
それでも、リトアニアも対イスラム国グローバル同盟の一国なので、自身が二重のターゲットであることに変わりはなく、危機意識を持って生活を送っております。
しかしながら、この危機意識、あるいは危機感というのは正しい表現ではなく、どちらかというと関心と責任です。この2つが湧き上がりました。
筑波大学 国際総合学類の学生として
ジハード
十字軍
イデオロギー
情報戦
サイバーテロ
国際司法
空爆
アメリカ
ざっとこのようなキーワードそれぞれについて、それぞれ本を読んだことがないと国外では心寂しいです。
一体何が起きているのか。
なぜ起きているのか。
どんな背景を経て、それぞれ(の国)はどう対処しているのか。
日本は、個人はどう戦略を立てて、対応すればいいのか。
次何が起こるのか。
留学生として生活していると、当然テレビやその他の現地のメディア情報に疎くなります(本来なら、それらに精通すべきですが、筆者はリトアニア語を習得を目的としていないため、理解できないままでいます。)。こうした状況で、留学生同士が集まると、共通の話題が少ないので、トピックとして、世界ニュースや出身国の話、アナタ自身、特技、趣味があがります。
「結局のところ、もめている国土は日中、日韓どっちの国のものなの?」
とぎょっとする質問を受けることも少なくはありません。
ーロシア旅客機テロの後、ロシア語の授業が通常の半分の時間で終了しました。理由は、ロシア人の先生が精神状況が優れないためです。
ーフランスのテロを受けて、泣いている人を見かけました。自分には、寄り添うことなどできませんでした。
ーフェイスブックのプロフィール、トリコロール問題が起こりました。いつからか、テロそのものよりも、そっちの問題に日本語の報道は移り変わってしまったように感じます。
プロフィール写真どうこう、Pray Forどうこう、怒りや同情を示した投稿など、個人の表現方法として、そのどれを選択するかなどは問題ではありません。
ぼくは、先生や泣き崩れる人を前にして、自分の無力と無知を恨みました。
上記のキーワードを具体的に知らず、表面だけの事象を追いかけては知ったつもりになり、いざ、当事者の、彼らの悲しみの深みを目のあたりにした時、心の中をひゅっと風が通り過ぎた、なんともやりきれない気持ちになりました。
関心と責任。
それ以降、毎日ワールドニュースラジオを聞き、読書をしています。
留学生として
12月中旬の期末テストを受け、秋学期は終了です。
ヴィリニュス大学での交換留学も半分を過ぎようとしています。
実は、孫崎さんの本を読んで反省を強いられたのですが、リトアニア人との交流をあまりして来ませんでした。リトアニア語を履修していないこと、取っている授業が留学生用(英語)なので会う機会がないこと、と言い訳できるのですが、それでは寂しいので、テスト後はもう少し積極的に関わっていきたいと思います。
レポート内容も、次回はリトアニアに関してです。
終わりに
2015年は日本では戦後70周年でした。
しかし、2015年をこうした「戦後70周年」と呼んでいる国は他にどの国がいるでしょうか。
現在の状況を世界第3次大戦と捉えるつもりはありませんが、それでも世界には、砲弾が行き交う空が存在しています。その空の下で育った方々は、ほぼ確実に私達とは違う価値観、考え方をしているでしょう。
世界にはイデオロギーが存在しています。
かつて、十字軍にやられた最大の屈辱がムスリムの共通認識として存在しています。
その認識と底へ追いやられた屈辱に火を着けようとして情報戦が現在してます。
この情報戦に勝つためには、個人的には空爆などでは意味がなく、同じように情報戦で挑むことだと思っています。アノニマス等のハッカー集団が戦う理由と手段がこれです。彼らも、水面下での戦いと同時に、公式宣言をし、いかに自分たちが正当であるのかを主張した上で、能力と理念のある世界中の同志を収集しているのです。情報戦の核は、イメージ、イデオロギー形成です。
日本も、最近ですと、東京オリンピック招致成功が情報戦を制した結果となりました。弱点であったオリンピック開催の理念を、戦略的にすり替え、日本が持つ「安全」を軸とした理念の解釈を訴えることで成功しました。
2020年に東京オリンピックがあります。
先ほど、情報戦の核は、イメージ、イデオロギー形成と述べました。ならば、イメージダウンのための情報戦もあるわけです。
ロンドン・オリンピックでは2億を超えるサイバー攻撃が起こりました。例えば、電源制御盤を狙って、開会式で故意に停電を起こさせるものがありました。万が一電源が落とされても30秒あれば復旧できる体制を布いていたそうですが、30秒でも世界中が注目する開会式が真っ暗に包まれたら国のメンツは丸つぶれです。
オリンピックは曲がりなりにも、政治や産業も絡んだ公式アピールの場です。日本の産業や未来の技術などを鑑みると、東京オリンピックの式典ではロボットが活躍、まちなかでもIoTを導入したサービスが普及しているかもしれません。
当然、サイバー攻撃に備えなければなりません。ロボット、ドローン、IoTがハッキングされることだって十分に起こりうります。国が所有するものだけが対象なのではなくて、個人のものも同じ対象です。個人所有のドローンを万単位でハッキングして、同時刻にある特定の箇所を奇襲するというリアルDDoS攻撃だってありうるわけです。
*DDoS攻撃:あらかじめ踏み台としてコントロール下に置いた多量のコンピュターで特定のサーバにその処理能力を超えたアクセスをしかけ、サーバダウンを狙う攻撃。
私達一人ひとりがセキュリティに関心を持つこと、情報収集を欠かさないこと、そして、情報戦の裏側、本質を洞察し、自ら考える姿勢が求められています。
終始まとまりに欠く文章となってしまいましたが、「考えた」こととして受け取っていただけると幸いです。








